人生の終幕に立つ人々の姿を描いた、全八編の短編集。巧みな筆致で読ませるが、どこか胸に重くのしかかるような読後感が残る。生きることには哀しみが宿るのか、老いとは希望すらも奪うものなのか――白秋ではなく、まさに玄冬の物語だ。
「人形の家」では定年退職後の男が最後にやり残したことを見つめ、「五十回忌」では亡き姉への想いが兄弟たちをつなぐ。「こういう話」は汚職の果ての逃避行、「うつせみなれば」は三十年の勤めを終えた男の帰宅に漂う虚無。
湯治場での再会を描いた「燐火」、人間の業をあぶり出す「逃げ水」、母の過去が影を落とす「曼珠沙華」、そしてほんの少しミステリの香りが漂う「赤い記憶」。いずれも人生の翳りに向き合った物語ばかりだ。
主人公たちの行く末に思いを馳せると、どこか絶望がよぎる。それは、まだ私が彼らほど年齢を重ねていないからかもしれない。あと二十年経てば、もっと静かに、もっと深く受け止められる気がする
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