鞄屋の娘 前川麻子

小説
Amazon.co.jp: 鞄屋の娘 (光文社文庫) 電子書籍: 前川 麻子: Kindleストア
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父と娘の深い愛情を描いた、自伝色の濃い作品。著者の思い入れはひしひしと伝わってくるものの、文体には難があり、人物の代名詞の入れ替えが煩雑で、三人称から突然独白に切り替わるなど、構成に戸惑いを覚える箇所も少なくない。
著者は元映画女優で、現在は演劇の演出にも携わるという。物語は、女性にだらしない父・宏司の死をきっかけに動き出す。中学卒業前に父を亡くした麻子、突然失踪した母、そして火葬場で初めて言葉を交わす腹違いの兄・太郎。父と同じ鞄職人の道を歩み始める娘の姿に、切なさと静かな決意が滲む。
著者=主人公という構図を意識的にぼかそうとしているが、感情の入り方に生々しさが残る。
孤独は寂しい、しかし人に囲まれすぎるのも煩わしい。家族に恵まれなかったからこそ、愛情を渇望し、豊かに育てることもあるのかもしれない。そんな問いが、読後に残る。

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