ミステリにアクション、そして家庭の事情を絶妙にブレンドした一作。ジャンルに収まらない面白さが光る。主人公は44歳バツイチ、瀬戸内で海上タクシー〈ガル3号〉を操る船長・寺田。己の生き方に忠実であったがゆえに離婚し、今は若き助手・弓と共に静かな日々を送っていた。そんな彼に舞い込んだ奇妙な依頼。9つの島を回り、50人の乗客を運ぶ不可解な旅の果てに、思いがけない展開が待っている。
派手さはないが、終盤にはフルコースを食べ終えたような満足感が広がる。緻密な構成と筆致から、作者の実力がうかがえる。寺田の過去や弓との関係の行方も気になるところだが、物語はあくまで静かに、確かに心に残る。読後、他の作品を探さずにはいられなくなる一冊
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