
リトル・バイ・リトル (講談社文庫)
ふみは高校を卒業してから、アルバイトをして過ごす日々。家族は、母、小学校2年生の異父妹の女3人。習字の先生の柳さん、母に紹介されたボーイフレンドの周、二番目の父――。「家族」を軸にした人々とのふれあいのなかで、わずかずつ輪郭を帯びてゆく青春...
壊れた家族関係の中で、淡く静かな恋と成長を描いた青春小説
それなりに希望が感じられる物語だ。不幸な状況にありながらも、それを感じさせない飄々とした主人公・橘ふみ。ゆったりと芽生える恋心がくすぐったく、青春の瑞々しさが漂う。タイトル「リトル・バイ・リトル」も、この作品にまさにふさわしい印象だ。母はバツ2、ふみは高校を卒業してアルバイトをしている。異父妹のユウと3人で暮らす日々に、母の再就職や、母の勘違いから知り合ったプロのキックボクサー・市倉周が現れる。勢いで彼の試合を観に行くと返事したふみの小さな一歩が、物語をそっと動かしていく。128回芥川賞候補作であり、同回受賞作「しょっぱいドライブ」との比較も興味深かった。選考の明暗を分けたものは何だったのか。どちらも“純文学”と呼べるのかは一考の余地があり、改めてその定義の曖昧さを感じさせられる。