一流企業に潜入した元CIAの男が、社内の陰謀と国家を揺るがす極秘情報に巻き込まれていく。スパイ技術とビジネス戦略が交錯する中、真実を暴くための孤独な戦いが始まる。緊迫感あふれる企業スリラーである。
読後にどこか物足りなさを残す。米国のIT企業を舞台に、不正が発覚した社員がスパイとしてライバル企業に潜入し、諜報活動と出世競争を同時にこなしていく展開は興味深い。しかし、スリリングなはずの場面に緊張感が乏しく、細部の描写もどこか曖昧で、読者の没入を妨げる。父親の介護やアメリカンジョークの挿入も、物語に深みを与えるどころか冗長に感じられる。エリート層による支配といったテーマは示唆に富むが、掘り下げが甘く、不完全燃焼に終わる印象が否めない。題材自体は優れているだけに、もう一歩踏み込んだ構成が求められた作品。