Amazon.co.jp : 冬の標 乙川優三郎
激動の明治維新、絵の好きな女性の半生を描いた時代小説。人の情と義を問う時代小説。
人生とは何か、生きるとはどういうことかを深く問いかけてくる作品である。直木賞受賞後の第一作ということもあり、作家としての覚悟がにじむ。江戸末期、激動の時代を舞台に、自由に生きるとはどういうことかを、絵を愛する少女の人生を通じて描き出す。前半は時代背景や絵画に関する知識を求められ、やや取っつきにくいが、後半に向けて一気に物語に引き込まれていく。親や周囲にとっての「幸せ」が、当人には苦痛でしかないという構造は現代にも通じる。中高年に響く重厚なテーマを持ちつつも、だからこそ若者に読んでほしい。激変する社会の中で、それでも自分の標(しるべ)を持って生きようとする姿に、読む者は心を打たれる。人生の本質に静かに迫る力作である。