リアルワールド　桐野夏生

桐野夏生　『黒い作品』

巧緻な心理描写と、現実からほんの少しずれたような高校生たちの感性。桐野夏生ならではの「若さ」の危うさが全編に漂う一冊。物語は、高校三年の夏、隣家に住むK高校の秀才・ミミズが母親を撲殺し逃走するという衝撃の事件から始まる。事件に巻き込まれていくのは、好奇心からミミズを追いかける女子高生四人組――ホリニンナ、テラウチ、ユウザン、キラリン、そして「私」。

表面上は平凡な少女たちが、それぞれの内に抱える虚無、歪み、焦燥。彼女たちの感情は大人の理解を超え、独特のリアリティを持って迫ってくる。情報過多で複雑化した現代社会。その中で、若さゆえの探求心や衝動が時に一線を越え、悲劇へと繋がっていく。

すべての選択に責任は伴う。潔さや覚悟が問われる瞬間、取り返しのつかない「何か」が確かに起こる。読後に残るのは、説明しがたい徒労感と、静かに汗ばむ背中の違和感。そう、桐野ワールドは現実のすぐ隣にある。