小説というより連載コラムのような軽快な文体で、テンポよく読み進められる作品。主人公の心理描写も丁寧に描かれ、非常に分かりやすい。著者自身の体験が投影されていると感じさせる自伝的要素も魅力の一つ。“人から必要にされたい。ただそれだけだ。”という言葉が印象的な、大瀬崎亜紀。大学も二つ目、年齢的には三浪と同じという彼女は、自信が持てず流されるように生きている。偶然採用された編集プロダクションで、シャチョーに見込まれ奮闘を始める。不器用ながらも「~してはいけない」という命令が嫌いなスナフキンのような大人を目指し、前に進もうとする姿が胸を打つ。章の題名や目次の言葉選びも秀逸で、思わず唸る。アイデンティティの確立は誰にとっても難しいが、誰かを憎まず、妥協せずに生きる亜紀は、実は並外れた器を持った人間なのかもしれない

さよなら、スナフキン (新潮文庫 や 52-2)
さよなら、スナフキン (新潮文庫 や 52-2)