小春日和 野中柊

小説
小春日和 (集英社文庫)
70年代。双子が主人公のハートフルな物語。小春と日和。映画好きの母の影響で、タップダンスを習い始めた幼い双子姉妹に、CM出演のチャンスが舞いこんできて…。70年代の逗子を舞台にしたハートフルな物語。幻の傑作、文庫化!(解説/長嶋 有)

ふわりと優しい風が吹き抜けるような、ほのぼのとした回想録仕立ての物語。三月生まれの双子の姉妹・小春と日和が、逗子の祖母宅で過ごす日々。父の名付けたその柔らかな名前の通り、穏やかな日常がゆるやかに描かれていく。映画好きの母の影響で始めたタップダンス、そして突然舞い込んだCM出演の話をきっかけに、少女たちの世界が少しずつ変わっていく。

トマトケチャップのCMが大ヒットし、静かな家庭に波風が立ち始めるが、あくまで物語は優しく、ノスタルジックに進んでいく。心理描写はやや浅めで感情移入には距離があるものの、ザ・ピーナッツ「可愛い花」の歌詞を挿みながら綴られる少女たちの成長は微笑ましく、読後にはほのかな余韻が残る。

エンタメ性よりも、静かに流れる時の感触を味わう一冊。最後は音がフェードアウトするように、静かに物語は幕を下ろす。

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