Amazon.co.jp : シブミ トレヴェニアン
面白い、完全に参った。既に故人となった著者は、出版に無頓着で偏屈だったが、確かに“天才”と呼ばれるにふさわしい存在だった。翻訳も極めて巧みで、訳者の力も本書の魅力に大きく貢献している。
物語は二つの時間軸で進む。現代と、太平洋戦争前後。ミュンヘン・オリンピックでの悲劇に絡み、報復を試みて返り討ちに遭ったグループの生き残り・ハンナ。そして、日本文化を深く受け入れながらも、時代に翻弄され殺し屋となったドイツ人、ニコライ・ヘル。彼らの過去と現在が交錯し、壮大なスケールで物語は展開する。
タイトルや章見出しには「シブミ」「フセキ」「サバキ」などのカタカナが並び、日本人すらドキリとさせるような“美学”が漂う。「シブミ」という言葉に込められた多重の意味をどう解釈するか、それ自体が読者への問いかけのようだ。
骨太でありながら繊細、哲学的でありつつ痛快。冒険小説の枠を超え、読む者を深く揺さぶる。翻訳物が苦手な人にも、強く薦めたい一冊