2025-06-15

小説

リアルワールド 桐野夏生

桐野夏生  『黒い作品』巧緻な心理描写と、現実からほんの少しずれたような高校生たちの感性。桐野夏生ならではの「若さ」の危うさが全編に漂う一冊。物語は、高校三年の夏、隣家に住むK高校の秀才・ミミズが母親を撲殺し逃走するという衝撃の事件から始ま...
小説

小春日和 野中柊

ふわりと優しい風が吹き抜けるような、ほのぼのとした回想録仕立ての物語。三月生まれの双子の姉妹・小春と日和が、逗子の祖母宅で過ごす日々。父の名付けたその柔らかな名前の通り、穏やかな日常がゆるやかに描かれていく。映画好きの母の影響で始めたタップ...
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レイクサイド 東野圭吾

著者はやや遅咲きながら、第134回直木賞を受賞。本作は登場人物も少なく、心理描写も控えめ。謎解き要素はほどほどに、一気に読める中編サスペンスだ。結末がハッピーエンドかバッドエンドか、読み手によって受け止め方が分かれる。私は哀しみを感じたが、...
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シブミ トレヴェニアン

面白い、完全に参った。既に故人となった著者は、出版に無頓着で偏屈だったが、確かに“天才”と呼ばれるにふさわしい存在だった。翻訳も極めて巧みで、訳者の力も本書の魅力に大きく貢献している。物語は二つの時間軸で進む。現代と、太平洋戦争前後。ミュン...
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ファニーマネー ジェイムズ ・スウェイン

シリーズ第二作となる本作は、カジノを舞台にしたミステリ。著者はカードマジックとギャンブルに精通しており、場の空気感や描写にはリアリティと臨場感が漂う。スピード感はやや抑えめだが、緻密な謎解きと渋い主人公の魅力で読ませる一冊だ。主人公は、カジ...
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繋がれた明日 真保裕一

殺人犯の心理に切り込み、社会の冷たさと人間の尊厳を描いた、重厚なテーマの社会派小説。129回直木賞候補作。冒頭の一文が心に深く刺さり、読後感は驚くほど清く、気高い。単に「暗い」と切り捨てるには、あまりにも誠実で強い物語だ。未成年の中道隆太は...
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陽気なギャングが地球を回す 伊坂幸太郎

『陽気なギャングが地球を回す』『陽気なギャングの日常と襲撃』『陽気なギャングは三つ数えろ』3部作? 第一弾目ありそうでなさそうな、脳天気ギャングによる痛快アクション小説。ひねりは少ないが、とにかくテンポが良く、あっという間に読了してしまう。...
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生きいそぎ 志水辰夫

人生の終幕に立つ人々の姿を描いた、全八編の短編集。巧みな筆致で読ませるが、どこか胸に重くのしかかるような読後感が残る。生きることには哀しみが宿るのか、老いとは希望すらも奪うものなのか――白秋ではなく、まさに玄冬の物語だ。「人形の家」では定年...
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噂 荻原浩

“サイコ”というよりは、王道のサスペンス。軽妙な筆致でテンポよく読ませるが、ラストの展開には好みが分かれるところ。一気読みした末の、あの最後の2ページを絶賛する声もあるが、蛇足かな?物語は「デンジャラスなレインマン」による連続猟奇事件から始...
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熊の場所 舞城王太郎

サイコでサイケ、そして好みがはっきり分かれそうな短編集。収録された三編はいずれも不気味で異様だが、読後には妙な納得感が残る。著者は純文学からアニメパロディまでを手がける型破りな作家。クセの強い文体と独自の世界観で読者を引きずり込む。「熊の場...
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アナン 飯田譲治/梓河人

飯田氏と梓氏による共著は、壮大なファンタジーというより「大人のおとぎ話」といった趣だ。ホームレスの流が拾った赤ん坊アナンを育てるうちに、周囲で奇妙な現象が次々に起こる。アナンの前では、どんな人間も秘密を持てないという設定は興味深く、物語に不...