2025-06-07

小説

冬の標 乙川優三郎

激動の明治維新、絵の好きな女性の半生を描いた時代小説。人の情と義を問う時代小説。人生とは何か、生きるとはどういうことかを深く問いかけてくる作品である。直木賞受賞後の第一作ということもあり、作家としての覚悟がにじむ。江戸末期、激動の時代を舞台...
小説

『トワイライト』重松清

定年を迎えた男が、再会した初恋の人との交流を通じて過去と向き合い、人生の黄昏時に新たな一歩を踏み出す姿を描く。切なさと希望が交錯する物語である。人生の折り返し地点に差しかかった39歳の男女が、過去と現在、そして未来に向き合う姿を描いた作品で...
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いつもの道、ちがう角 松尾由美

平凡な日常を送る女性が、ふとしたきっかけで「いつもと違う道」を選んだことから、不思議な世界や人々と出会い、人生の選択や可能性について考え直していく物語。静かな感動が広がる一冊である。現実なのか?夢想なのか?勘違いなのか? さらりと読めるが、...
小説

神無き月十番目の夜 飯嶋和一

島原・天草一揆の渦中、圧政に苦しむ民衆が信仰と誇りを胸に立ち上がる。若き絵師が一揆軍に加わり、命を懸けて理不尽な世に抗う姿を描く。埋もれた歴史を鮮やかに掘り起こす歴史ミステリである。作者の巧みな筆致によって、多くの人名や地名が登場しつつも、...
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貴婦人Aの蘇生 小川洋子

事故で意識を失った貴婦人Aが、医療スタッフの献身と周囲の愛情に支えられながら、記憶と自我を取り戻していく。静かで深い人間ドラマを描いた感動作芥川賞作家ならではの繊細かつ濃密な人間ドラマである。マニアックな執着や妄執をテーマにし、『博士の愛し...
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水の繭 大島真寿美

幼い頃に海で溺れた過去を持つ女性が、心の傷を抱えながらも再生を目指す。家族や友人との絆を通じて、自らの「水の繭」を破り、新たな一歩を踏み出す感動の物語である。現代社会にありがちな家庭の崩壊と離散を背景に、傷ついた少女がゆっくりと立ち直ってい...
小説

クリスマス・プレゼント ジェフリー・ディーヴァー

どんでん返し16連発! ミステリ短編集の傑作。巧緻・巧妙な罠が、細心の注意で仕掛けられており、騙されるのが非常に心地良く、楽しい。ちょっとした空き時間で読むには最適であろう。その短時間で、十分堪能できる。全体のまとまりも良く、短編の見本の様...
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狼の帝国 ジャン・クリストフ・グランジェ

猟奇殺人事件を追う刑事が、調査の中で巨大な秘密結社と狼にまつわる古代伝承に迫る。やがて事件はヨーロッパ全土を巻き込む陰謀へと発展し、刑事自身の過去とも深く交差していく。狂気と暴力が渦巻くダークサスペンステロ、政治、移民、麻薬と社会問題を山盛...
小説

夜明けのフロスト R.D.ウィングフィ-ルド 他

クリスマスにちなんだミステリの傑作7編(短編6+中編1)からなるアンソロジー。7編全ての完成度が高く秀作、非常に読ませる本になっている。各作家が個性豊かな探偵・警察官を登場させ、最後の落とし所を見事に決めている。この「小さな灰色の脳細胞」を...
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侵入社員(上・下)ジョゼフ・フィンダー

一流企業に潜入した元CIAの男が、社内の陰謀と国家を揺るがす極秘情報に巻き込まれていく。スパイ技術とビジネス戦略が交錯する中、真実を暴くための孤独な戦いが始まる。緊迫感あふれる企業スリラーである。読後にどこか物足りなさを残す。米国のIT企業...